2023年、マツダロータリー復活というニュースを知らない車好きは居まい。
ロータリーエンジンと言えば…
極悪燃費であり、故障であり、排ガスの悪さである。
カーボンニュートラル、環境性能、脱炭素というキーワードが支配する現代社会の真逆のイメージしかないロータリーエンジンがこのタイミングで復活した。
登場当初は高出力エンジンとしてレシプロを凌駕したと言われるが、レシプロの進化によってその優位性は失われたというのが通説であり、
その経緯を考えれば考えるほど、今更復活する理由がわからない、と誰もが思う。
そして明らかになった、新型の8Cというロータリーエンジンは発電機の駆動用であり、車両の動力には関与せず、動力としては電動機(モーター)を採用するという考え方である。
なるほど。と思ったと同時に、ややガッカリする気持ちが無いと言えばウソである。
・・・・
ここまで書いた文章、これは一般的な車好きが思う普通の感想である。
8割くらいの人は、別に否定しない感想じゃないか。
だが、私はニワカ車好きだ。
ロータリーが動力にならなくてガッカリ・・・確かにその気持ちはある。
だけども、なぜガッカリしてるんだとふと疑問に思った。
ロータリーは好きだ。乗ってたからじゃない。プロジェクトXで昔観たからだ。
ロータリー開発物語が好きなのだ。
ならば発電機用だろうが、関係ないじゃないか。と思う。
でもそこに、すんなりと納得できないのはなぜなのか。
なぜロータリーエンジンが動力でないとガッカリするのか、
そんなにロータリーエンジンで走る車は特別なのか。
これを解き明かすために、ロータリーエンジンについて調べることにしたのである。
ロータリーエンジンの歴史
ヴァンケル博士が原型を完成させるまで
マツダが実用的量産車への搭載を実現したが、もとはドイツのヴァンケル博士が発明したので、
ヴァンケルエンジンとも言われる。ってのは、ソコソコの車好きは知ってる。
だが、産業革命の進展に大きく貢献したイギリスのジェームズ・ワットも挑戦したらしいが、
実現しなかったということは知らない人も多い。と思う。
ジェームズ・ワットは1736年に生まれた機械技術者である。
マツダのRE車が登場したのは当然1900年代後半。200年以上先の話だ。
もともとの基本原理はロータリーポンプであり、それは1588年にイタリアで発明されたそうである。
月日を20世紀に進め、一般的に言われる歴史を辿ると、
ドイツのヴァンケル博士が西ドイツのバイクメーカーNSUと提携してロータリーエンジン研究を進めていた。
最初に完成したのはエンジンではなく、
スーパーチャージャーだったらしく、NSUの50ccバイクの世界最高速度記録樹立に貢献したのち、
その後の1957年に試作ロータリーエンジンを完成させた。
このロータリーエンジンは、現在想像されるローターハウジング内をローターが回転する機構とは違い、ローターハウジングも回転する構造であった。
その1年後にハウジング固定型の、ヴァンケル型ロータリーの原型が完成した。
小型かつハイパワー。ピストンの往復運動が無く、
ローターの回転運動をそのまま回転力をとして取り出す構造は、
機械的ロスや振動が小さく、夢のエンジンとして世界中の注目を集めたという。
マツダの歩み
1961年にヴァンケル・ロータリーエンジンのライセンス契約について、
日本政府より認可を得て、マツダの技術団がNSUへ派遣された。
当時NSUは後に紹介するような未解決の課題も多かったロータリーエンジンの
単独研究に限界を感じており、複数社へのライセンス料で稼いで、
また共同開発による発展を目論んだわけである。
NSUへの技術提携の申し込みは世界各国に及び、
日本だけでも34社からあったというから注目ぶりが伺える。
その中で、国内自動車メーカーとしては後進であったマツダが、
新興技術であったロータリーエンジンに価値を見出し、
そこにメーカーの技術力の強みをいち早く持とうとしたのだと、
また、1960年代日本においては特定産業振興臨時措置法案により、
当時の3大メーカー「トヨタ」・「日産」・「いすゞ」を
それぞれ中心とした3グループに分かち、優遇することで基幹産業としての発展を強化させようと検討されており、
これによってはマツダがいずれかに吸収されるであろうことを見据えて、
会社の独立を守る為の策であったという背景を考えると心情的には惹かれるものがある。
…
現物を見た一行は高速かつ低振動を保って回転するロータリーエンジンに衝撃を受けたが、
まもなく、ロータリーエンジンを実用化するにあたっては、
解決しなければならない技術的課題があることを知る。
なぜ、発表されてから1年以上経過しているにもかかわらず、
量産されていないのか。それには理由があるというわけで、
長時間運転によってローターハウジング内にチャターマークと呼ばれる、
異常摩耗が発生するというきわめて重大な欠陥があったのである。
ロータリーエンジンの仕組み
チャターマーク。…プロジェクトXでは「悪魔の爪痕」と紹介されていた現象である。
これを紹介にするには、ロータリーエンジンがどのような構造であるかについて、
ある程度説明しなければ想像が難しい。
ロータリーエンジンでは繭型のハウジング内に位置する、
三角形のローターが「吸気→圧縮→爆発→排気」のオットーサイクルを伴って公転する。
ロータリーエンジンでは燃焼室が移動するため、
上のアニメーションでは1室に注目して判りやすくされているが、
このサイクルは3室同時に行われている。
また、図中のAとBの回転速度の違いに表れている通り、
ローターの公転1回(1つのサイクル)につき、
中心にあるB(エキセントリックシャフト)は3回転する。
ちなみにエキセントリックシャフトは車以外の機械にも使われているものなので、
エキセンとかエキセン軸と聞いてもRE話とは限らないので注意が必要である。(?)
機構上の利点・欠点については一旦ここでは触れず、別で紹介することにする。
ロータリーエンジンの技術的課題
三角形のローターの頂点部に取り付けられているガスシールを
アペックスシールと呼ぶ。燃焼室の機密を保つ重要部品である。
(引用:Motor-Fan TECH)
このアペックスシールはハウジング内を線接触によって、
滑らかに摺動し、かつ密閉を保つという…どう考えても矛盾するような性質が求められる。
NSUが発表した試作エンジンにおいては鋳鉄系材料が用いられていたそうだが、
長時間運転によってハウジング内壁にチャターマーク(異常摩耗)が生じたのである。
これに代表されるような種々の課題が残されていた状態で、
1961年にマツダはライセンス契約を締結し、ここから苦難が始まりとなる。
1964年に販売されたNSUによる世界初の量産ロータリーエンジン搭載車「NSU ヴァンケルスパイダー」や、後継車「Ro80」では、エンジントラブルに対してエンジンそのものの交換で対応していた。
ヴァンケルスパイダーはエンジンが実用的に未完成でありながら販売された。
実車走行テスト時はスペアのエンジンをいくつも用意して載せ替えながら行っていたというから、ひどい話である。
初期のロータリーエンジンに残る技術的課題は、チャターマークだけではない。
(つづく)
<<参考文献>>
・プロジェクトX(NHK)
・オーナーズバイブル ROTARY ENGINE archives
・ロータリーエンジン車―マツダを中心としたロータリーエンジン搭載モデルの系譜