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サスペンション第2回:形式の種類 【ストラット/ダブルウィッシュボーン】

サスペンション形式には多くの種類があるが、

スポーツカーは大概、

・ダブルウィッシュボーン

・ストラット

・マルチリンク

のどれかを採用しているので、スポーツカー好きなら、どれもなんとなく聞き覚えがあるはずである。
なので、今回はこの3種類に絞って調べた。

ちなみに、マルチリンクは定義することが難しいらしい。
マルチリンクとはすなわち、このようなものだ!とは決められないそうで、ダブルウィッシュボーンの特徴をベースに、各メーカーによりプラスされたものをマルチリンクと表記しているようである。

ダブルウィッシュボーン式サスペンション

まずはダブルウィッシュボーン式から。
レースカーやスポーツカーといえば、このサスペンション形式のイメージが強く、採用するスポーツカーの「良い足」の代名詞的な面がある。

名前の由来は、アームの形が鳥類の叉骨(ウィッシュボーン)に似ていること。
これがアッパーとロワアームで2対の組み(Aアームと呼ぶ)だからダブルウィッシュボーンと呼ばれる。

下の写真はNBロードスターのフロントサスペンションである。見てわかる通り「A」の形をしている。

フロントAアーム部

マツダのロードスターは、初代からダブルウィッシュボーン式を採用している。
スポーツカーには絶対にダブルウィッシュボーンだという開発者の提案は有名な話だ。

この対になったアームが、サスペンションの位置関係変化(幾何学上変化・ジオメトリ変化)に影響する。

下の図は、ある凸面を乗り越えるときに、アームが短い時と、長い時の差を示す。

ジオメトリ変化

アーム(赤線)の長さが短いほど、凸を乗り越えるときの角度変化が大きくなる。

この長さの影響以外にも、アッパーアームとロアアームの長さ関係が対地キャンバー角変化に影響する。
これらの調整により接地性を高められることがダブルウィッシュボーンのメリットである。
そして、この設計自由度を得るためには、足回りの広いスペースが必要となる。

それはつまり、フロントにおいては、エンジンなどの配置、エンジンルームの広さに影響を及ぼし、制約を生むことになる。

例として、トヨタ86とBRZはフロントがストラット式であり、リアだけがダブルウィッシュボーン式である。
これは水平対向4気筒という横幅の広いエンジンを採用している以上、ダブルウィッシュボーン式サスペンションを組み入れるスペースを確保することは難しいのが主要因で、コストダウンを図っているわけではないはずである。

それを犠牲にして、低重心水平対向エンジンによるスタイリッシュなフロントデザインを得ているわけだ。

トヨタ86(ZN6後期)

同じ理由で、水平対向エンジンでなくとも、
横置きエンジンであればスペースの確保が難しくなる。
つまり、FFレイアウトの場合である。

シビックEK9は前後ダブルウィッシュボーンだが、あとのtypeRはフロントはストラットである。(EK9のアッパーアームはかなり短い)

シビック

この点、一番有利なのはフロントにエンジンを持たないミッドシップレイアウトである。
ただMRの国産車で言えば、NSXは前後ダブルウィッシュボーン式だが、ビートもマツダAZ-1もS660もストラットである。
まぁ、ビートもAZ-1、S660も軽だが。

トヨタMR2はSW20の開発時点でダブルウィッシュボーン構想はあったようだが、
当時トヨタのノウハウ不足により、ストラット式を採用したと説明されている。
個人的には、惜しい!と思うものの、もしダブルウィッシュボーン式が採用されていたら、MR2の容積の大きいトランクは実現していなかったのではないかと思うと、やはりストラット式で良かったように思えてくる。

 

リアにおいては、乗員空間や積載性に影響する。
スポーツカーではそれらの要素を犠牲にすることに躊躇いは小さく、
フロントはストラットであっても、リアはダブルウィッシュボーンであることが多いのだろう。

 

ストラット式サスペンション

上でダブルウィッシュボーン式を採用できない場合に、ストラット式を採用しているという紹介をした。
比べるとストラット式は使用するスペースを小さく出来、使う部品点数も少なくなる。
これはストラット式がダンパー(ショックアブソーバー)を支柱として、アッパーアームの役割を兼ねた構造だからである。
なお、”ストラット”とは支柱を意味しており、よく聞く「マクファーソン・ストラット」のマクファーソンとは、考案者の名前である。

ストラット式

 

 

上図は左がストラット式、右がダブルウィッシュボーン式を模している。
ダブルウィッシュボーン式と比べると、アッパーアームが存在しないため、この長さを確保する必要がなく、省スペースとなる。
これがつまり先ほどのFFレイアウトにおける横置きエンジンや、乗員の居住性を重要視する乗用車において大きなメリットとなるのである。

一方で、ショックアブソーバーがアームを兼ねるため、コーナリングフォースによる負荷が直接かかることから、ショックアブソーバー自体の動作を妨げることになる。

また、ダブルウィッシュボーン式と比べると、ロアアームの浮き上がりによって、ポジティブキャンバーが付きやすくなるため、キャンバー角の調整が必要である。

ポジティブキャンバーの発生

このストラット式の弱点を何とかしているのが、トヨタが開発したスーパーストラット式である。スポーティーなハンドリングを好むユーザーの期待へ応えるため、AE101やAE111にオプション採用された。
※しかし、ストローク減や、最小旋回半径が増大し小回りが利かないといったデメリットもあり、メジャーには成らなかったようである。

以上のような省スペース、安価という性質から、ストラット式は一般乗用車における独立懸架タイプのサスペンション形式ではポピュラーである。

マルチリンク式

マルチリンク式は、ダブルウィッシュボーンのようにAアームが対であることや、ストラットのようにダンパーがアームを兼ねている等の明確な特徴がない。

明確ではないものの、ダブルウィッシュボーンの派生のようなイメージで、Aアームを2つに分割したものをマルチリンクと呼ぶことが多いようである。

ダブルウィッシュボーンの改良なのか、マルチリンクなのかという分類はかなり曖昧らしい。
これだけ聞くと、マルチリンクがダブルウィッシュボーンより優位であるかのようだが、RX-8の開発コメントで、「後輪のダブルウィッシュボーンを諦めてマルチリンクにした。」というコメントがある。
なぜダブルウィッシュボーンを使いたかったのか、コスト面なのか、性能面なのか?

Aアームを各リンクに分離することによって剛性が劣る?
これについては詳しい資料が見つからず不明。
ロードスターもNC以降現在もリアがマルチリンク式が採用されているので、性能面を諦めたということは無さそうだが・・・

 

【参考文献】

ニューモデル速報 第322弾 MAZDA RX-8のすべて

きちんと知りたい! 自動車サスペンションの基礎知識

車両運動性能とシャシーメカニズム

ニューモデル速報 歴代シリーズ 歴代カローラのすべて

 

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